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【放送大学千葉学習センター/学びの先輩に聞く】
82歳で修士課程を修了。学びへの情熱につき動かされた30年を振り返る
放送大学 千葉学習センター
4日前
- 社会
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放送大学大学院 文化科学研究科 自然環境科学プログラム 修士課程(千葉学習センター)/小川 脩子さん
社会人のための生涯学習機関として1981年に創設された放送大学。テレビ、ラジオ、インターネットを活用した通信学習はもちろん、Zoomを用いたライブWeb授業や各都道府県に置かれた学習センターでは面接授業を実施している。
放送大学の大学課程は、教養学部教養学科のみの1学部1学科。豊かな教養を身につけると共に職場や実生活で活かせる専門的な知識を得られる。用意されているコースは「社会と産業コース」「生活と福祉コース」「心理と教育コース」など全6種。大学卒業資格を満たす全科履修生や、任意の科目だけを選べる選科履修生など4通りの履修スタイルが選べる。
今回登場いただいたのは、2025年3月に修士課程を修了した小川脩子さん。大学在学時にグランドスラムを達成し、その後大学院修士課程に進んだ経緯など、放送大学千葉学習センターで過ごした30年を振り返ってもらった。
豊かな自然に囲まれた町に生まれ、研究熱心な教師と出会う
富山市の中心部から南へ約15km。江戸時代から続く夏の風物詩「おわら風の盆」で知られる山間の町、八尾(やつお)で小川脩子さんは生まれ育った。
「周囲に山々が連なり、とても自然豊かな場所で過ごしました。私たち地元の子はおわらを習って、毎年9月1日のお祭り本番を迎えると、汗をかきながら一生懸命に踊ったものです」と、幼少期を振り返る。
地元の公立中学校に進学後、小川さんは後の人生に大きく影響を与える男性教師と出会う。教師の名は桐野秋豊(しゅうほう)さん。八尾の公立校で理科の授業を担当する傍らツバキの研究を続け、60年以上にわたりツバキの研究に情熱を傾けた人物である。
「桐野先生の授業はとにかく面白くて。学校のまわりに咲いている植物を観察したり、田んぼでカエルを取ってきて解剖をしたり、身近な教材で私たちに理科の楽しさを教えてくださいました。先生の影響で私も理科が好きになり、当時先生が顧問を務めていた生物クラブに入っていたんです」。桐野さんは当時からユキツバキの研究を行っており、生物クラブに所属していた小川さんも間近でその熱心な研究姿勢を目にしていた。
「『私もいつか植物の研究をしてみたい』。夢中になって研究する桐野先生に憧れ、そう思うようになっていました」。しかしその後、小川さんは家庭の事情により大学進学を断念。数年ほど会社勤めをして、結婚を機に専業主婦に。研究者になる夢は自然と遠のいていった。
夫の闘病を支えるため、放送大学で脳の仕組みを学ぶ
結婚後は2人の子宝に恵まれ、良き妻、良き母として慌ただしい毎日を送っていた。そんな小川さんが放送大学に入学するきっかけとなったのは、最愛の夫を突然襲った病だった。
「53歳の時、夫が脳出血になりました。酷い後遺症も残らず社会復帰できたのは良かったのですが、いつ再発するとも分かりません。何かあった時に夫をサポートするには、私が脳の仕組みや病気の事を知っておく必要があるだろう。そう思っていた時に、たまたま公民館で放送大学のパンフレットを目にしました。中を見ると『脳と生体統御』という科目が書かれていたんです」。
放送大学の存在はそれ以前から知っていた。大学進学を諦めた苦い経験から、大人になったらいつか放送大学で好きなだけ学びたいと思っていた小川さんは1995年、夫の闘病の一助になればと52歳で放送大学に入学した。
「『脳と生体統御』はもちろんの事、『基礎生物学』や『分子生物学』といった実験をもとに細胞を学ぶ学問は楽しかったですね。学ぶうちに他の科目にも興味が湧いてきて、放送大学にどんどんのめり込みました」。専業主婦をしながら放送大学での学びを続け、卒業と再入学を繰り返した小川さんは18年をかけて教養学部全5コースの学士を取得。千葉学習センターで学ぶ女性では初となるグランドスラムを2013年3月に達成した。
「入学後も夫の病気は何度か再発しました。大学で学んだ知識も活かせましたし、時間をやりくりして夫の付き添いやリハビリにもしっかり向き合えました。看病だけの生活でしたら、気が滅入ってしまっていたかも知れませんね。授業や試験に打ち込む事でだいぶ気が紛れていたと思います。放送大学は私の精神的な支えでした」。
入学から30年の春に修士課程を修了。夢はこれからも続く
小川さんのグランドスラム話には続きがある。2013年春に5コース目を卒業した年、放送大学では新たに「情報コース」が新設され、全6コース制となった。そこで小川さんは再入学を決め、数年かけて6コース目の学士を取得。その間、専門分野を習熟した人物のみが認定を受けるエキスパートの資格も取得した。小川さんは、この時既に70代後半。そして、ここから大学院へのチャレンジが始まった。
「情報コースで学んでいた時、植物に関するミニゼミが始まりました。担当していたのは私が修士課程でお世話になった中村俊彦先生です。興味本位でゼミを受講してみると、中村先生は桐野先生のように研究熱心で、とても丁寧に授業を進める先生でした。2度目のグランドスラムを達成した直後、中村先生に『修士に進んで植物の研究をしたい』と申し出ました」。この時考えていた修士論文の研究テーマは、千葉学習センターに隣接する若葉緑地の植生について。生物学や植物学の勘を取り戻すために1年かけ受験勉強を行い、2022年度に大学院に入学した。
「中村先生と話し合った結果、若葉緑地に加えて稲毛海浜公園の森林群落も研究対象にしたんです。各調査プロットにコラードを設け、毎木調査や群落調査を行い、3年かけて修士論文を書き上げました。中村先生は時に厳しく私の調査や論文作成を指導してくださり、納得のいく内容に仕上がりました」。
夫の病気を支えるために放送大学に入学し、ちょうど30年の春。2025年3月に小川さんは82歳で修士課程を修了した。2025年度からも修士課程に籍を置き、中村さんの指導を得ながら「自然環境復元学会」にて植物の研究を続ける予定だ。
「中村先生の紹介で東京大学の農学特定支援員になりました。東大に所蔵されている貴重な植物標本の整理をしながら、植物の分野をもっと深めていきたいと思っています。10代で桐野先生の情熱に触れ、70代で桐野先生と同じくらいの情熱を持った中村先生に出会いました。2人の情熱に触発されてなんとか修士まで終えましたが、私の中ではまだまだ研究を続けたいという思いが消えません。消えないどころか大きくなるばかりです」。今後の目標を小川さんにたずねると、少しはにかみながら「90歳で博士課程を修了する事が目標です」と答えた。
最後に、放送大学への入学を考えている読者に向け、小川さんからメッセージをもらった。「放送大学に入る条件は、たった一つだと思っています。それは、学びたいという意欲です。私も学び始めたらどの科目も面白くて、他の分野にも自然と興味が湧き、30年があっという間に過ぎました。年齢に関係なく入れるのが放送大学の良さで、好きなスタイルでご自身の学びを実践できる環境が整っています。そんな素晴らしい大学で、充実した人生を味わっていただきたいですね」。
プロフィール
小川 脩子/おがわ・ひさこ
1943年、富山県婦負郡八尾町(現・富山市)出身。専業主婦をする傍ら、1995年に放送大学へ入学。教養学部6コースの学位を取得するグランドスラムを達成し、79歳で修士課程へ進む。3年をかけ修士論文をまとめあげ、2025年3月に修士課程修了。
※この記事は2025年3月現在の情報をベースに作成し、更新しております。内容が変更になっている場合もございますので、詳細は放送大学または、放送大学千葉学習センターの公式ホームページをご確認ください。
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